声明・談話

新型コロナウィルス関連の法改正についての会長声明

2021年(令和3年)2月10日
和歌山弁護士会
会長 山崎 和成

本通常国会において、「感染症の予防及び感染者の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」という。)及び「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」という。)の改正法が成立した。新型コロナウィルスの感染拡大という緊急の事態において、更なる感染拡大及びそれに伴う医療崩壊等の事態を防止して、新型コロナウィルスの収束を図るために、法改正を含む有効な施策を講じる必要があることは当然である。

まず、今回の感染症法の改正は、当初予定されていた入院措置に応じない者等に対する懲役刑や罰金刑、積極的疫学調査に対して拒否したり虚偽報告したりした者等に対する罰金刑の導入を見送り、行政罰としての過料に留めて成立した。感染症の拡大防止のために実効性ある抑止力は必要であろうが、新型コロナウィルスの感染状況は地域差が大きく、新型コロナウィルスに関する医学的知見も発展途上であることなどを考えれば、刑罰の導入を見送ったのは妥当である。

次に、特措法の改正法は、都道府県知事が「まん延防止等重点措置」として事業者に対して休業や営業時間の変更等(以下「休業等」という。)の措置を要請、命令することができ、命令に応じない場合は過料を科し、要請や命令をしたことを公表できるとしている。

各地の感染拡大状況等に応じて、地域の実情を知り地域の住民に責任を負う都道府県知事が休業等の要請や命令を行う権限を有することになったのは評価できる。しかし、「要請」とはいえ同調圧力の強い社会にあっては事業者に対する大きな制約となり、従わない場合に公表などの不利益処分を伴うことも考慮すれば、休業等の要請に伴う「損失補償」がなされることが必要不可欠である。これらの要請等の主な対象とされている飲食事業者は、零細な個人事業者であることも多く、適切な補償なき休業等の要請は従業員の解雇や倒産につながり、これらの事業に従事する者の生活や生命を奪いかねない。憲法上営業の自由や財産権が保障されており、またこれらの事業者が危険な事業を行っている訳ではないのに、新型コロナウィルスのまん延防止という公共の福祉のために特別の犠牲を強いられる以上、憲法29条3項の趣旨に照らし適切な補償が受けられることが必要である。

特措法は第62条で一定の場合に損失補償や実費弁償を規定しているにもかかわらず、今回の改正法でその対象に休業等を要請される事業者が明示的に追加されなかったことは極めて不合理である。この点に関する衆参両議院での附帯決議では努力目標に過ぎず不十分であると言わざるを得ない。

また、昨今の感染拡大状況において、都市部では感染者が入院できず自宅療養中に病状が急変して死亡するという痛ましい事案が発生している。新型コロナウィルス感染症の治療にあたっている医療機関や医療従事者には感謝と敬意を表するものであるが、このような医療機関が全体の一部に限られていることが問題の背景にあると考えられる。高度の医療及び保健体制が整備されている我が国において、病床過剰地域も多い中、軽症者や急性期を過ぎた者を民間病院に入院させることができれば、病状急変による死亡や医療崩壊は可及的に防止できるはずである。

特措法第31条は、都道府県知事が医療関係者に患者等の医療を行うよう要請ないし指示ができるという規定をおいているが、国の財政的支援の増額にもかかわらず、民間病院等の協力は一部地域を除いて不十分であると思われる。

よって、特措法の改正については、休業等を要請される事業者に対する適切な損失補償について明記し、民間病院等の協力を一層促す法制度が速やかに再検討されるべきである。併せて、感染者や医療関係者及びその家族に対する差別や偏見を防止し又は除去するための法整備も検討すべきである。

当会としても、長引くコロナ禍によって困窮する人々の人権を守るために、無料の各種法律相談の提供、経済的再生のための様々な法的支援の提供等を今後も継続してゆく所存である。