声明・談話

生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明

2023年(令和5年)4月7日
和歌山弁護士会
会長 藤井 友彦

 2013年8月から3回に分けて実施された生活保護基準の引き下げ(以下「本引下げ」という。)は、 生存権を保障した憲法25条に反するなどとして、和歌山市内の生活保護利用者らが、保護費減額処分の取り消し等を求めた訴訟において、本年3月24日、 和歌山地方裁判所(髙橋綾子裁判長)は、同処分を取り消す判決を言い渡した。
 本引下げについては、全国29の地方裁判所に30の訴訟が提起され、既に17の地方裁判所で判決が言い渡されているが、 保護費減額処分の取り消しを認めた本判決は、大阪地方裁判所(2021年2月22日)、熊本地方裁判所(2022年5月25日)、東京地方裁判所(同年6月24日)、横浜地方裁判所(同年10月19日)、宮崎地方裁判所(2023年2月10日)、青森地方裁判所(同年3月24日)に続いて7例目となり、本年3月29日には、さいたま地方裁判所においても保護費減額処分取消判決が言い渡された。
このように、判決の言い渡しのあった裁判所のうち、半数近くの裁判所において本引下げを違法とする判決が出ているということそれ自体が、我が国のナショナルミニマム(国民的最低限)である生活保護基準への信頼が大きく損なわれているということであり、極めて憂慮すべき事態であって、信頼回復への取り組みは急務といえる。
 本判決は、厚生労働大臣が削減額670億円のうち90億円削減の根拠とした「ゆがみ調整」に関して、増減効果を一律に2分の1としたことについて、 統計等の客観的な数値等との合理的関連性も専門的知見との整合性を欠き、激変緩和措置であったとの国の主張は、当時厚生労働省が作成していた書面には記載されていないこと、また、生活保護基準部会(以下「基準部会」という。)に諮らないまま行われたことを指摘した。
 また、580億円の削減額の根拠とした「デフレ調整」についても、その調整に用いられた生活扶助相当CPIの考案過程や、指数比較の起点を2008年とすることの検討過程が明らかではなく、内容も統計等の客観的な数値等との合理的関連性を欠いていること、生活扶助基準の改定については、1983年以降、専門家による検討で消費動向に注目した水準均衡方式が採用され続け、本引下げにおける基準部会の検証においても物価等を考慮することに異論等が出されたにもかかわらず、物価変動を考慮したという点で長年の専門家の知見と整合しないこと、また、基準部会に諮らないまま行われたことを指摘した。
 そして、本判決は、これらの点を踏まえ、「ゆがみ調整」「デフレ調整」ともに、内容面においても、手続面においても厚生労働大臣の裁量権の逸脱・濫用があり、生活保護法3条、8条2項に反するものとして違法であると判断した。
 当会は、かねてより、生活保護基準の引き下げに強く反対してきた(2013年(平成25年)2月15日付け「生活保護基準の引き下げに反対する会長声明」、2018年(平成30年)2月23日付け「生活保護基準の引き下げを行わないよう求める会長声明」)。本判決は、生活保護基準の引き下げが違法であるとし、専門家による審議検討を重視する判示をした点も含め、高く評価できる。
 折しも、ロシアのウクライナ侵攻等から派生した物価高騰で、多品目において大幅な物価上昇が続いており、生活保護世帯の生活に重大な影響を与えている。このような状況下において、生活保護基準の適正化は喫緊の課題である。
 よって、当会は、厚生労働大臣に対し、これまでに積み重ねられた司法判断を踏まえ、早急に生活保護基準を見直し、速やかに2013年8月以前の生活保護基準に戻すとともに、生活保護利用者が置かれている厳しい生活実態を直視し、真に健康で文化的な最低限度の生活ができる生活保護基準に改定することを求める。